福島みずほの人権いろいろ


月刊誌『部落解放』好評連載中コラムを福島みずほさんのご了解を得て、転載いたします。

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大きな勇気、小さな勇気

〈『部落解放』2020年11月号〉

 

 映画「オフィシャル・シークレット」を見た。実話にもとづく映画である。
 二〇〇三年、イラク戦争開戦前夜、イギリスの諜報機関で働くキャサリン・ガンの職場に一通のメールが届く。アメリカの諜報機関であるNSA(国家安全保障局)からのもので、イラク侵攻への支持を拡大し、決議を上げるために国連安全保障理事会の非常任理事国のメンバーを盗聴するように求めたメールである。キャサリンは、大量破壊兵器も見つからないなかでイラクに侵攻することに憤り、戦争を止めたいと内部告発に踏み切る。オブザーバー紙はこの文書を「イラク戦争決議に勝つためのアメリカの汚い手口」と題する記事にする。報道はインパクトをもち、米英は国連安保理で多数を獲得することもできなくなった。しかし、米英などは戦争に踏み切る。
 内部告発をした犯人探しが始まり、キャサリンは捜査を受ける。捜査のときに録音を始める。弁護士の立ち会いのもと、取り調べが行われる。そして、その場で釈放される。その当番弁護士のアドバイスで「リバティ」という人権団体の弁護士たちに相談に行く。ここはうらやましいかぎりだ。日本は取り調べに弁護士の立ち合いはないし、国家機密法違反であれば、その日に釈放されることもないだろう。キャサリンはすぐ釈放されたので、自由に出かけて弁護士たちと十分に話ができる。日本もこうならなければと切に思う。
 キャサリンは当時三〇歳。このことで仕事を失い、監視はつくし、大変な状況になってしまう。映画は息詰まるような法廷場面も描いている。この映画の最後に本人が出てくる。「同じ場面になればもう一度同じことをやります」と彼女がインタビューに答えている。それは本当にすばらしい。
 ペンタゴン・ペーパーズを持ち出したエルズバーグと、アメリカが世界を監視していることを明らかにしたスノーデンのことを考えた。
 ペンタゴン・ペーパーズは、ベトナム戦争の真実をアメリカが調査で明らかにしたものである。エルズバーグはこれを持ち出し、ワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズで連載が始まる。トンキン湾事件はアメリカの自作自演であったことが書かれている。ニクソン政権は記事に差し止めをかける。アメリカ最高裁は、国民に知る権利があると記事の差し止めを認めず、記事は連載された。このことはベトナム戦争が終わることに大きく貢献した。
 スノーデンは、NSAのデータを持ち出して暴露し、現在、ロシアに亡命している。オリバー・ストーン監督のスノーデンの映画やドキュメンタリーを見た。また、スノーデン自身がオンラインでインタビューに答えている。
 エルズバーグは窃盗罪と秘密漏洩罪で起訴される。起訴された罪名のすべての法定刑を足すとなんと一一五年。起訴され、公訴は取り消しになるが、大変な負担を被る。スノーデンは故郷を離れ、知人、友人と会えず、彼自身、多大な犠牲を払っている。すべてを失ったともいえるが、人間の尊厳を守るために自分がやるべきだということをしたのである。国家が国民に平然と嘘をつくことに対して、それを知った人間はどのような行動をすべきなのか、ということをまさに問うている。彼ら、彼女らの大きな勇気に励まされる。
 そして次に、小さな勇気の話をしたい。「今夜もフェミテレビ」というインターネット番組をやっている。そのなかでフェミニストの北原みのりさんがこう言った。銀行のATMで、もたもたしている年配の女性がいて、ある男性が「何ぼやぼやしてるんだ!」とひどく怒鳴った。相手が年配の女性だったから遠慮なく怒鳴ったのであり、もし相手が立派な身なりをした紳士か強面の人だったら怒鳴らなかったのではないかと。そこで彼女は思わず「そんなに怒鳴らなくていいじゃないですか」と口に出したそうである。そしたらその男性はひるんで黙ってしまったそうだ。怒鳴られた女性は、北原さんにそう言ってもらえてだいぶ救われたのではないだろうか。「#検察庁法改正案に抗議します」のツイッターデモを始めた笛美さんは、毎日少しずつ、ちょっとだけ踏み込んでまわりの人に話をすることをやりはじめたそうだ。
 大きな勇気には感動するけれど、反射的にちょっと言ってみる、よく考えて言ってみる、人を助けるためにちょっと言ってみる、一人ひとりがそんな小さな勇気をもったら、この社会は劇的に変わるのではないだろうか。




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