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◆「薬漬け」精神医療への疑問◆
〈『部落解放』2002年12月号掲載〉
渋井哲也
私は、九〇年代後半からインターネットのHPで「生きづらさ」をキーワードにした心の問題を扱うコンテンツを作っていた。その電子掲示板では、現実の人間関係でなかなか打ち明けられない人が、匿名性を利用しながら、胸のうちを吐き出している。最近では、徐々に精神医療とリンクするような内容が多くなってきている。
「逃げている部分もあります。でも本当の自分がどこかにあるような気がするんです」。ある女性(十代後半)はそう話していた。自分探しをしていくうちに、インターネットにはまり、自傷行為をカミングアウトしたHPの内容に共感していく。そして自らも自傷行為をするようになった。手首自傷(リストカット)や大量服薬(オーバードーズ=OD)などの自傷行為は、依存的な行為であることもあいまってか、十代や二十代では、ある種、流行になってきている。マスメディアでも自傷行為の視覚的な要素を取り上げる。またインターネットでの自分語りは、生きづらさのはけ口となることもある。一方で、逆に「病的な人間」の枠に閉じ込めることもある。まさにマッチポンプ的状況ともなりえる。
別の女性(二十代後半)は、何度も自殺未遂の経験がある。その経験や日常的な悩みをWEB日記で綴っている。読んだ人から反応があると嬉しいという。「自分のことが知りたい。生きる意味がわかるかもしれないし」と話していた。「自分のことが知りたい」という欲求は、かつては哲学や宗教が引き受けてきたことだろう。最近では精神医療がその受け皿になってきている。例に挙げた二人の女性も精神科に通っている。
「心の支え」や「悩みの整理」という点においては、精神科への通院は悪くない。しかし精神科の医療は、話をあまり聞かずに、薬を処方することに主眼がある医師も多いことをよく耳にする。そしてほかの医療に比べてわからない部分も多い。厚生労働省は、精神保健福祉法に基づく立ち入り検査の結果を、原則として公表する方針を決めたほどだ。最近では、入院患者を違法に縛りつけるなどしていた埼玉県の朝倉病院や、禁止する必要がないのに両親らとの面会を長期間禁じていた山口県の県立病院「静和荘」などが問題となっていた。
また、日本の精神医療は多剤処方が問題視されてきている。全国精神障害者家族会連合会(全家連)などの調査では、薬の処方が一剤という患者の割合は、日本が20%なのに対し、米国は61.7%、旧西ドイツ62.9%、イタリア52.2%など。逆に、四剤以上処方している割合は、日本では11.5%あるのに、米国、ブラジル、旧ユーゴ、パナマなどではゼロ。イタリアが1.1%、ハンガリーが1.7%だった(『朝日新聞』2002年9月15日)。
「薬漬け」の日本の精神医療を示す一例だろう。処方薬をどう飲むかは、原則的に自己管理だ。しかし、ODのサポート体制も、救急的な処置以外はほとんどない。そのことに、精神医療の従事者は自覚的であるべきだ。そんな中で「日本うつ病学会」(仮称)の設立を目指す動きがある。医師や心理学者、社会学者、企業関係者たちがうつ病に関する情報を共有する試みで、患者団体とも連携するらしい。このような動きは歓迎したい。精神医療をめぐる状況は急激に変化している。その現状を頭にいれ、できれば、処方薬依存や自傷行為などに対するサポートシステムを充実してほしい。また、多量投薬ではなく、少量投薬とカウンセリング重視の「脱『薬漬け』精神医療」を目指すべきだ。
(しぶい・てつや/フリーライター)
※てっちゃんの“お元気でクリニック” http://member.nifty.ne.jp/~sbtetuya/
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