コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2018/2/23up)




◆ 連帯して守るに見合う価値がある ◆

〈『部落解放』2018年2月号掲載〉

戸田 栄

 九州には縁がなかったが、この一〇年ほどで関東から山口県までの五〇カ所以上の被差別部落を訪ねた。いくつもの団地群で構成される都市の大部落、こじんまりして落ち着いた風情の農山村や漁村の部落、わずか数軒で部落という単位はそぐわない感じのところ……。そのあり方の違いに驚く。
 多くの場所で差別解消に努める人と出会った。誰もが地域固有の課題を挙げる。差別は地域の歴史や風土と関係する。部落解放運動の都府県連などを通じての連携はあるが、それぞれが自らの場所で力を尽くしている印象を受けた。そんな見聞から部落解放運動は、中央集権的ではなく、地方分権的だと考えている。
 それは承知のうえだが、存続の危機にある大阪人権博物館(リバティおおさか)をなんとか全体の力で助けてくれないかと思う。現状は、大阪市中心部の運動の課題にしかなっていない観があり、私にとってはもどかしい。部落問題の理解には欠かせない施設だと考えているからだ。
 部落問題は理解するのが非常に難しい問題になってきていることを、まずは受け止めてほしい。私自身がそうだった。父は転勤が多い仕事で、私は特定の地域に密着して育っていない。そのためか、部落差別を記者になるまでほとんど意識したことがない。当時は部落解放・人権研究所長だった友永健三氏と出会って勉強を始めたが、最初はわけがわからなかった。けがれ観と聞いて理屈は頭に入れても、感覚的に理解できず、私にとっては謎の差別≠セった。今や私のように育った人間は相当に増えている。部落差別が見えないものとなって、一定の地域で育った子も感覚を持ち合わせず、部落で育った子どもたちにもわかりにくい問題になっているのではないか。
 記者は教えてもらう人を探せるが、一般にはそういう機会はまずない。部落問題の存在を訴えるのなら、関心が芽生えた人が学びに行ける施設を用意しなくてはならない。全国の部落問題を扱う展示施設はなるべく見るようにしてきた。部落問題の総合的な展示施設としては、規模、内容ともリバティおおさかが最も優れている(展示替え前はもっとよかった)。部落問題の関係者は、この問題の中で生きてきたからこういう認識を持ちにくいかもしれないが、そこは改めるべきだ。
 私の場合、理解が進むと、日本や日本人を考えるに欠かせない問題だと考えるようになった。そこで、本格的に学び始めると、日本の過去・現在・未来、日常・仕事・文化などと問題にはとてつもない広がりがあることを知った。私は今も全体を見渡せないが、その役割を担い、わかりやすく提示するのも博物館だ。
 本来は、日本というものに向き合い、よき未来を導くために部落問題の枠を越えて守られるべき博物館だと思う。しかし、日本人全体の意識はそこまで達していない。まずは部落問題関係者の総力を挙げて守り、一般の意識の覚醒を促すしかない。リバティおおさかは、連帯して守るに見合う価値があると考えているので、全国の力を寄せていただきたい。

(とだ・さかえ/毎日新聞編集委員)


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