コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2019/2/12up)




◆ 「私は捏造記者ではない」、スケープゴートにされた元記者の闘い ◆

『部落解放』2019年1月号掲載

植村 隆

 朝日新聞大阪社会部記者当時の一九九一年八月一一日、朝日新聞大阪本社版社会面トップに、韓国挺身隊問題対策協議会がソウル在住の元朝鮮人従軍慰安婦の聞き取り作業を始めたという私の記事が掲載された。本人への直接取材が許されず、同協議会への取材を基にした。私はこの女性について、「だまされて慰安婦にされた」と書いた。また「『女子挺身隊』の名で」とリードで表現した。当時、日韓のメディアで、よく使われていた言い方だった。韓国では、慰安婦のことを「挺身隊」とか「女子挺身隊」と呼んでいたからだ。この女性は三日後に記者会見し、金学順(キム・ハクスン)という実名を明らかにして、被害体験を語った。この勇気ある証言がきっかけで、被害を証言する元慰安婦が相次いだ。
 北海道新聞のソウル特派員は金学順さんに単独インタビューをし、「女子挺身隊の美名のもとに」という表現を使った。その後、産経新聞や読売新聞は金さんについて、強制連行と書いた。ところが、私の記事だけが、二十数年後に、西岡力氏と櫻井よしこ氏の二人に「捏造」と決めつけられた。両氏は金学順さんが人身売買されて慰安婦になったと決めつけ、私が強制連行と書いたとウソを言って「捏造」を強調した。そして私は、激しい「植村捏造バッシング」に巻き込まれることになった。専任教授として採用された神戸松蔭女子学院大学へ「採用を取り消せ」という抗議が相次ぎ、転職の道は絶たれた。「慰安婦捏造の元朝日記者」「売国奴」などと、ネットに無数の誹謗中傷、脅し文句が書き込まれた。非常勤講師として勤めていた札幌の北星学園大学にも同様の攻撃があった。私だけでなく、「娘を殺す」という脅迫状まで送られてきた。私は慰安婦問題を否定する勢力によって、スケープゴートにされたのだ。
 このため、私は二〇一五年一月に東京で、西岡氏らを相手に名誉毀損訴訟を起こした。弁護団の数は約一七〇人、団長は中山武敏先生である。同年二月には札幌で、櫻井よしこ氏らを被告に同様の訴訟を起こした。一一四人の弁護団である。いずれも、「植村捏造バッシング」を見過ごしたら、日本の言論の自由は守られないと立ち上がってくれた弁護士の方々だ。新聞労連や日本ジャーナリスト会議(JCJ)などが組織を挙げて支援してくれている。大勢の市民たちの応援もある。
 札幌地裁で、当時の北海道新聞ソウル特派員は櫻井氏の植村批判について、「言いがかり」と証言した。法廷では、櫻井氏の言説の虚偽が明らかになった。東京地裁でも、西岡氏の主張の根拠の記述に間違いがあったことが明らかになった。捏造していたのは両氏ではないのか。しかし、二〇一八年一一月九日、札幌地裁で私は敗訴した。判決は、櫻井氏のずさんな取材にも関わらず、真実相当性を認め、櫻井氏を免責したのだ。不当判決であり、高裁で逆転勝訴を目指したい。
 東京地裁は同年一一月二八日に結審した。私は意見陳述でこう訴えた。「こんな『植村捏造バッシング』が許されるなら、記者たちは萎縮し、自由に記事を書くことができなくなります。こんな目にあう記者は私で終わりにして欲しい」。同地裁では、二〇一九年三月二〇日に判決が下る。平和と人権を守ることが、ジャーナリストの原点だと信じて、私は闘い続ける。

(うえむら たかし/元朝日新聞記者、韓国カトリック大学客員教授、週刊金曜日発行人)


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